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【ビル】賃貸テナントビルの立ち退き料相場と明け渡しまでの流れについて

2021.05.16

ライター:横山 篤司

築45年の雑居ビルを建て替えるために、立ち退き交渉から明け渡しまでの実例を順を追って解説します。今回は3年間に渡る立ち退き計画について解説をします。

注目するべきポイントは、

・入居者との契約を見直して定期借家契約(立ち退き合意)を進めていく

・立ち退き期間を想定して立ち退き料の概算(借家権買取)を計算する

・誰が立ち退きの実行者であるかを決める

といったことが挙げられます。

立ち退き計画を前もってつくっておくことで、立ち退き料を当初の計画より1/3以下まで削減することができました。

その過程においては、専門家の知恵を借りたうえで立ち退き計画をつくり、入居者(当事者)以外の誰にも知られることないように極秘に立ち退きを進めていくことです。

できれば入居者と個別交渉できる良好な関係をつくり、事前に入居者とお話をして、入居者の生活や仕事の状況に合わせた条件を出すことでトラブルとなる可能性はぐっと減ります。

なお、弁護士を通じて入居者への告知するタイミングが早すぎると、入居者からの反発(居座り行為)や、団体交渉、相手方の弁護士を立てられてしまうこともあるので、弁護士から入居者への一斉告知はできれば控えましょう。

弁護士へ相談する際は、トラブルとなる入居者を想定しておくことです。オーナーに対して悪意や関係がよくない入居者であるほどトラブルとなる確率が高いのは言うまでもありません。

※このビルは2009年より建替え計画を実行し、再開発で約8年間、うち2年間の解体~再建築を経て、2017年に建替えを終えました。

一般社団法人不動産オーナー経営学院REIBSでは、独自の調査をおこない、全国の立ち退き事例を収集しています。1000人以上の不動産オーナーがこれまで受講し、悩みを抱えるオーナーのために不動産経営に関わる専門情報を提供しています。

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テナントビル立ち退き事例の現状と課題

対象事例について

築45年のビルの建替え実例
〇〇県で事務所ビル(築45年)の貸しビル業を営む不動産オーナーY氏(63歳)は、建物の老朽化による漏水、設備トラブルが多いため、数年後にビルの建替えをすることを決めた。2009年当初の立ち退き料想定額は約15億円であった。そこで8年後の建替えを見据えて各入居者に対して定期借家契約への切り替え交渉を進めた結果、2012年11月の立退き実行経過では定期借家契約率60%、立退料想定7.5億円にまで費用圧縮に成功。2013年4月より立ち退きを実行をし、2015年6月まで約2年間ですべての入居者の立ち退きが完了しました。立ち退き実行をした結果、実際の立ち退き料総額は約3.8億円であった。

築古ビルの建物

<建物概要>2015年以前の建物外観。

敷地面積:約480坪(土地・建物共有 所有権比率は50%超)

用途:事務所、銀行、店舗、クリニック、学校他

構造:鉄骨鉄筋コンクリート造/地上9階、地下3階(地下1階店舗)

設備:冷暖房完備、エレベーター3基、機械式駐車場

※このビルは2009年より建替え計画を実行し、再開発で約8年間、うち2年間の解体~再建築を経て、2017年に建替えを終えました。

2009年 立退き計画の立案

建替えにあたり、ここでは①計画着手から立ち退きまでの約6年間について詳しく紹介します。

(1)建替え準備フェーズ(1年)

(2)立退き計画フェーズ(3年)

(3)立退き実施フェーズ(2年)※一般的な「立ち退き」といわれる期間

(4)解体実施(1.5年)

(5)新築フェーズ(0.5年)

3年に及ぶテナントビル立ち退き計画フェーズ

立ち退き計画をつくるうえでのポイントについて詳しく説明します。

ポイント①入居者の情報収集

各入居者に対して以下の項目を参考にして事前に情報収集しておくとよいでしょう。

・事務所名(店名)〇〇サービス
・代表者氏名 〇〇〇〇氏(63歳)
・業務内容 販売代理店事業
・入居年数 2年3カ月
・契約形態 R1.03.01契約(普通借家契約)
・経営状況 〇〇

各入居者の状況をヒアリングするうえで、事業はうまくいっているのか、事業の後継者がいるのか、多額のお金をかけて内装工事をしたのか?といった経営状況を調査していきましょう。

また過去に滞納があった、クレームがあった、近隣とトラブルになっていたという経営者の素行を調査しましょう。

また将来の移転を促ううえで、多額のお金をかけて内装工事をしている、お店やショップで人気があり移転の可能性が低い、といった移転の可能性を調査しましょう。

ポイント②建替えの理由を事前説明する

入居者に対してすぐに建替えを明言するよりも、将来的な建物の維持管理への課題が多いために、今後とも良好な関係を継続していくことを前提として、3年後を目安に建替えしたいとお伝えください。あくまで立ち退き交渉をするのではなく、建替えの時期の目安を伝えてあげることです。

1、ビルの維持管理が将来的に厳しいこと。雨漏り、設備修繕、設備更新が不能であること。
2、ビルの安全性に不安があり、現状では皆様の生命を守り切れない。
3、建替えによって経済的な収益が倍増するわけではないため、利益目的ではないこと。
4、ビルの収支として、今後も維持修繕がかかるが家賃は低い。お金もあまりないこと。
5、皆さんとは今後も良好な関係を継続していきたいこと。

上記5つの理由があることを、すべての入居者へ、同時期に伝えることが立ち退きの第一段階です。

とはいえ、明確な立ち退き・解体時期の明言を避けましょう。時期や条件を先に伝えてしまうことで、あとで言った、言わないといったトラブルとなってしまうことが多くなります。

ポイント③立ち退き料の想定

立ち退き料の算出方法については、以下の(1)~(5)の通り、立ち退き料を算出する5つの方法を参考にしましょう。

(1)普通借家権の価格(不動産鑑定士等が対応)
(2)移転費用(仲介会社等が対応)
(3)営業補償(設計士や仲介会社等が対応)
(4)造作買取(建築士等が対応)
(5)慰謝料(弁護士等が対応)

ただし、実用的な計算をするうえでは以下の7項目を参考にするとよいでしょう。

  賃料補償 引越代 店舗補償 諸条件 現状回復 仲介報酬 仲介料 立退料計
入居者①                
入居者②                
入居者③                

弁護士や開発会社などに立ち退き業務を依頼すると報酬が高額となってしまう可能性があるため、できれば入居者と示談(実費ベース)で進めましょう。

立ち退きのスケジュール

テナントビル立ち退き実行フェーズ(1年目)

ここからは立ち退き実行した結果をご紹介します。

①立ち退き計画の立案 第1回調査

2009年 立退き料概算15億円/定期借家契約率0%
建築会社A社の見積より賃料収入6億円のビルに対して立ち退き料は約15億円程度と概算。
(店舗は3年分、事務所は賃料の2年分、住居は1年分程度を想定)
※ただし即時に立退き実行した場合とする。

立ち退き計画の実行 第2回調査

2010年 立退き料概算12億円/定期借家契約率20%
リーマンショックによる経済的な理由で1階と2階の事務所400坪の入居者が退去。
年間の賃料収入が1.5億円減ったが、立ち退き料としては3億円程度下がった効果あり。

③定期借家契約での再契約

2011年12月 1階と2階の店舗飲食店と2年間の定期借家契約で契約。賃料は5千万円程度。
原状回復義務の免除、居抜き契約のためオーナーの負担を軽減した。

まずはビルの空室部分を家賃を減額したうえで満室化することを目標とする。

④立ち退き計画の進捗 第3回調査

2012年2月 立退き料概算10億円/定期借家契約率50%
既存入居者の増床移転、賃料減額交渉に応じて定期借家契約への切替えを進める。
〇店舗:331.65坪
普通借家304.48坪/定期借家27.17坪/空室0坪
賃料総計5,434,192円(入居率100%、定借率8%)
〇事務所:2578.06坪
普通借家1226.18坪/定期借家1089.48坪/空室262.40坪
賃料総計9,386,542円(入居率89.42%、定借率52%)

⑤立ち退き計画の進捗 第4回調査

2012年11月 立退き料概算7.5億円/定期借家契約率60%
階層別効用積数比採用後の借家権価格(※普通借家権を買い取る)※普通借家分のみ
土地建物の借家権総額9億円
〇店舗  221.41坪(定借率34%)
建物借家10,590,900円、土地借家28,195,331
合計38,786,231  積算比採用後82,161,822
〇事務所 838.66坪(定借率70%)
建物借家40,121,645円、土地借家106,812,740
合計146,934,385  積算比採用後213,924,406

以上より、
店舗は賃料の3年分   1.06億円×3年分=3.18億円
事務所は賃料の2年分  2.14億円×2年分=4.28億円

併せて7.5億円程度が立ち退き料の最大値として想定。

⑥立ち退き実行 再開発組合の設立

2013年4月 入居者との交渉をすすめるなか、3つのケースシナリオに分けていった。
再開発組合を設立し、顧問弁護士と共に立ち退き実行にむけて準備会議を行う。
1. 早期合意の場合  2014年4月で退去目標。立退料想定2億円。
2. 立ち退き料次第の場合 2015年6月で退去目標。立退料想定3億円。
3. 裁判の場合  2013年より訴訟~2015年6月で退去目標。立退料想定4億円。

⑦訴訟 第5回調査

2014年6月 立退き料概算5億円/定期借家契約率90%
入居者3件を除くすべての入居者の立ち退きが完了。
上記3件は2013年6月より訴訟を開始。

⑧明け渡し 第6回調査

2015年6月 立退き料実費3.8億円/立ち退き完了

テナントビル立ち退き まとめ

立ち退きの交渉から明け渡しまでの実例を紹介しました。

・入居者との契約を見直して定期借家契約(立ち退き合意)を進めていく

・立ち退き期間を想定して立ち退き料の概算(借家権買取)を計算する

・誰が立ち退きの実行者であるかを決める

といったことが挙げられます。

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ライター紹介

横山 篤司地主学第一識者/不動産オーナー経営学院代表/執筆者・ライター

地主学第一識者/不動産オーナー経営学院代表/執筆者・ライター/NewYork留学、外資系投資銀行、不動産経験20年/不動産経営を分かりやすく教える事を大切にしてます。これまで日本で10,000人以上のオーナーと話し、不動産学として事例や成功体験を研究。創業80年名古屋の三代目地主の家系に生まれる。自らも実業家として宅地建物取引士、事業承継マネージャー、マンション管理業務主任者の資格を保有。プロの不動産投資を学び、家業再生にも力を入れ、借金を数年で完済することに成功。現在はビルやマンション、商業施設、駐車場等を経営。

中小企業庁主催「事業承継セミナー2017」モデル企業登壇/JFMA「不動産MBA」研究員/週刊ビル経営「建替え経営学」連載/全国賃貸住宅新聞/月刊不動産流通(宅建協会)ほか。

横山 篤司

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