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【ビル】築45年のテナントビルの立ち退き交渉と建て替え事例

2023.07.6

ライター:横山 篤司

ビルの立ち退きとは、事務所(事務を行う所、商店、営業所等)や店舗(飲食店、サービス店、物販店やクリニック等)といった法人の入居者に対して明け渡しを請求する行為を指します。

個人の入居者を対象とするアパートやマンションなどの住居に比べ、法人の入居者を対象とする事務所や店舗の立ち退きは難易度が高いと言われています。また店舗では代替地が見つかりにくいことから明け渡しまでの期間が長くなるのが通例です。

そこで今回は築45年の事務所・店舗のビルを建て替えるために、立ち退き交渉から明け渡しまでを行った実例を解説します。

 

1. 築古の事務所・店舗ビルの現実と解体理由

築古ビルの入居者

今回対象となったテナントビルは、

事務所・店舗が100件以上が入居する大きなビルでした。

 

建て替えの契機となったの理由は、建物の修繕費に多額のお金が必要となったことです。

また、1階の入居者が退去したことで賃貸収入が大きく悪化してしまったことです。

 

その結果、この先ビル経営を10年続けたとしても将来が見通せないことでした。

 

そこでビルの所有者として、

築古ビルを維持継続するべきか、あるいは建て替えをするべきかの判断を迫られました。

※このビルは2009年より建替え計画を実行し、再開発までに約8年間、約2年間の解体・建築期間を経て、2017年に建替えを終えました。

分からないという状況

1-1. 再開発までの約8年間のポイント

注目するべきポイントは、

・入居者100件に対して訴訟に至った確率は3%であった

・立ち退き料を想定と比べて1/3まで金額を抑えたこと

2年程度で立ち退き交渉から明け渡しに至ったこと

といったことが挙げられます。

この詳しい解説は建て替え経営学の連載コラム(全20回)でご紹介します。

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1-2. 立ち退き事例集(まとめ)

一般社団法人不動産オーナー経営学院REIBSでは、独自の調査をおこない、全国の立ち退き事例を収集しています。

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2. 建替えに至る現状と課題

ここでは建て替えに至るまでの現状と課題、そしてその背景についてまとめました。

2-1. 築45年のテナントビルの建て替え事例について

築45年のテナントビルの建て替え事例
〇〇県で事務所ビル(築45年)の貸しビル業を営む不動産オーナーY氏(63歳)は、将来的にビルの耐震工事を行いビル運営を継続していくか、建て替えをするかについて悩んでいた。ビルの立地は駅前にあり、これまでは入居者の募集には苦労せず、つねに満室状態が続いていた。しかし築40年目を境として旧耐震であることを理由に1,2階の入居者であった銀行が退去し、その後も賃料下落と空室が増えていくことか課題であった。管理会社からは大規模修繕やリニューアル工事に数億円のお金がかかることを指摘され、ビル運営に悩むようになった。

<建物概要>2015年以前の建物外観

敷地面積:約480坪(土地・建物共有 所有権比率は50%超)

用途:事務所、銀行、店舗、クリニック、学校他

構造:鉄骨鉄筋コンクリート造/地上9階、地下3階(地下1階店舗)

設備:冷暖房完備、エレベーター3基、機械式駐車場

※このビルは2009年より建替え計画を実行し、再開発までに約8年間、約2年間の解体・建築期間を経て、2017年に建替えを終えました。

 

2-2. 建替えを決断するに至る背景

いま、全国的に課題となっているのが「旧耐震(きゅうたいしん)」です。

旧耐震とは、設計において地震に耐えることのできる構造の基準で、1981(昭和56)年5月31日までの建築確認において適用されていた基準をいいます。

この旧耐震基準は、震度5強程度の揺れでも建物が倒壊しない強度とされ、震度6~7の巨大地震には耐えられないと言われています。

実際に、旧耐震物件でも耐震強度の高い物件は多く存在しますが、「旧耐震物件であること」を理由として、入居を敬遠されることが増えております。

不動産オーナーの心理としては、「耐震補強を行ったからだいじょうぶだ」と思いたいところですが、「耐震補強」はあくまで入居者の人命を守ることが目的の第一義とされ、一度大地震が起これば建物の再利用は不可能となるでしょう。

そこで建替えを視野に入れていきます。

2-3. 建替えにはどのくらい前から準備を行うべきでしょうか?

建替えには「莫大なお金」がかかります。

一般的に建物を解体するまでに、現在の年間家賃を目安としてマンションであれば2年分~3年分ビルであれば3年分~5年分がかかると想定されます。

その大きな費用を占めるのが、「立ち退き料」「解体費」です。

建替えをするうえでは、単純に建物を解体すればよいと思っている人も多い一方で、その費用についてはこれまで大手建設会社によるブラックボックスの状態でした。

 

その業務においては、たとえばマンションやビルであれば既存の入居者がおります。

建物解体の際には、入居者に対して「明け渡し」をお願いしなければなりません。

また、建替えにかかる「解体費」も準備しなければなりません。

さらに、建替え期間中の生活費や、弁護士、税理士などの専門家に支払う費用も準備が必要です。

結果として、多くのオーナーが建替えを先延ばしにしてしまうのが実状です。

 

3. 8年間の建て替え計画

今回の建替え事例では8年間をかけて建替え計画を準備して実行した記録を紹介します。

(1)建替え準備フェーズ(1年)

(2)立退き計画フェーズ(3年)

(3)立退き実施フェーズ(2年)※一般的な「立ち退き」といわれる期間

(4)解体実施(1.5年)

(5)新築フェーズ(0.5年)

 

4. 建替え準備フェーズ(1年)

なぜ建替えをしなければならない状況に陥ってしまったのかについて詳しく説明します。

理由①空室悪化や賃料収入が大きく減った

建替えを決断する理由の1つは、「空室の悪化」「賃料収入が減った」からです。

建物が古くなれば、どうしても設備の故障や雨漏りなどが頻繁に起こり入居者からのクレームが増えます。

その結果、周辺の賃料水準よりも安い家賃で部屋を貸さねばならなくなります。

空室の悪化→家賃を下げるという悪循環が続いてしまうと、たとえ賃貸業を続けていったとしても、収入より支出の方が高くなってしまう可能性がありました。

このように赤字のままビル経営を続けるならば建替えが選択肢の1つです。

理由②多額のリフォーム費用や修繕費が必要だった

次に、「多額のリフォーム費用がかかること」「大規模修繕費用が必要となる」からです。

建物や設備を修理をしないままでいると、外壁からの水漏れや、設備の故障などが頻繁に起こってしまいます。

また部屋を改装するためには大幅なリフォーム費用が必要となり、その投資費用を回収をするためにさらなる借り入れが発生してしまうことも想定されました。

このように修繕費用やリフォーム費用に多額の費用がかかるならば建替えが選択肢の1つです。

理由③事業承継を考えていた

そして、次の子供たちに「事業承継をする」からです。

建物が本当に今後も必要なのか。誰が、どう賃貸業を引き継ぎ、どのように資産を分割していくか。

よくある話として、親が新築のアパートやビルに建て替えするものの、子どもたちが不動産管理に興味がないままに相続を迎え、共有名義となって相続争いが起こるケースがあります。

その多くが不動産売却をしてしまう結末となります。

このように引き継ぐ人がいるかどうかを考えて建替えや売却を考えることも選択肢の1つです。

 

実際のストーリーはこちらでも紹介しています。

【週刊ビル経営連載】シリーズ事業承継①私はビル経営の息子

 

5. まとめー立ち退き計画へ

このように建替えをした結果から、お伝えできることがあります。

それは、建替えを本当にするまでは、いまの現状を打破する勇気がなかったことです。

実際に、私も建物が古く、課題が山積みであったとはいえ、経営を止めることはできませんでした。過去の栄光を捨てきれない、家賃収入が沢山あった頃が忘れられない、これまでやってきたことが間違いだと思いたくない、といった経営者の想いもありました。

また、誰かがやってくれると信じていました。

しかし、いざ建替えをしようと思うと、今、入居している企業に対してどのような説明をしなければならないのか?お金はいくらかかるのだろうか?このように迷い、銀行、税理士、不動産会社、建設会社にも相談をしました。

しかし、業者や専門家から返ってきた回答は「売却したほうがよい」でした。

結局、売却の決断はできませんでした。

このような悩みを抱えながら数年間は放置してきましたが、2009年、建替えする体制が整ったことで、立ち退き交渉へと進めていくことが決まりました。

 

5-1. まとめー立ち退き料を1/3まで削減

結論から言えば、立ち退きから明け渡しまで自分たちで行うことができました。またこの話は次のコラムでご紹介します。

【ビル】賃貸テナントビルの立ち退き料相場と明け渡しまでの流れについて

立ち退き計画フェーズ
2009年当初の立ち退き料想定額は約15億円であった。そこで8年後の建替えを見据えて各入居者に対して定期借家契約への切り替え交渉を進めた結果、2012年11月の立ち退き計画進行時では定期借家契約率60%、立ち退き料想定7.5億円にまで費用圧縮に成功。2013年

4月より立ち退きを実行し、2015年6月までの約2年間ですべての入居者の立ち退きが完了しました。立ち退きを実行した結果、実際の立ち退き料総額は約3.8億円であった。

 

ライター紹介

横山 篤司地主学第一識者/不動産オーナー経営学院代表/執筆者・ライター

地主学第一識者/不動産オーナー経営学院代表/執筆者・ライター/NewYork留学、外資系投資銀行、不動産経験20年/不動産経営を分かりやすく教える事を大切にしてます。これまで日本で10,000人以上のオーナーと話し、不動産学として事例や成功体験を研究。創業80年名古屋の三代目地主の家系に生まれる。自らも実業家として宅地建物取引士、事業承継マネージャー、マンション管理業務主任者の資格を保有。プロの不動産投資を学び、家業再生にも力を入れ、借金を数年で完済することに成功。現在はビルやマンション、商業施設、駐車場等を経営。

中小企業庁主催「事業承継セミナー2017」モデル企業登壇/JFMA「不動産MBA」研究員/週刊ビル経営「建替え経営学」連載/全国賃貸住宅新聞/月刊不動産流通(宅建協会)ほか。

横山 篤司

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