横山学長の思想とビジョン~日本最大の地主「森ビル」の歴史
2020.01.28
こんにちは。不動産オーナー経営学院の学長、横山篤司です。
不動産オーナー経営学院REIBSでは、「六本木ヒルズ」のタウンマネジメントを、授業のフィールドワークで実例検証の題材にしています。
その理由は、日本で一番成功した地主であり、森一族の思想と経営手法が全世界に広がった事例だからです。
今回はこの森ビルとタウンマネジメントの講和をはじめるにあたり、私、横山の自己紹介と経営者の原点をお話します。
地主不動産オーナー父子の事業承継バトル。築50年物件再生の衝撃実話!
不動産オーナー経営学院REIBS(リーブス)学長横山篤司のプロフィール
そこで、私が28歳の時に出会ったのが「六本木ヒルズ」をつくった森ビルのストーリーでした。
目次
森ビルとは?
<1955年に建てた虎ノ門の交差点近くにある西新橋2森ビルの写真>
森ビルの概要
森ビルの歩みは、今の感覚から言えば比較的小さな、1棟のビル建設からはじまりました。
森ビルの歴史・沿革 https://www.mori.co.jp/company/history.html
皆様がご存じの「六本木ヒルズ」を作った森稔氏(もり・みのる 2012年死去)は、大手財閥系出身ではない、いわゆる「地主の息子」でした。その父である森泰吉郎氏(もり・たいきちろう 1993年死去)と共に、親子で、わずか50年で「日本一の地主会社」までになりました。
その過程において、ラフォーレ原宿(1978年)、アークヒルズ(1986年)、愛宕ヒルズ(2001年)、六本木ヒルズ(2003年)、表参道ヒルズ(2006年)、そして虎ノ門ヒルズ(2014年)に至るまで、今でも色褪せないランドマークビルをたくさん作りました。
森ビルのヒルズ計画の共通点
森ビルのヒルズ計画には不動産経営に共通することがあります。
それは、ビル経営の末裔として、通常のデベロッパーや開発会社とは大きく異なる3つのポイントに集約されていると私は思います。
(1)家賃が下がりにくいこと
家賃が下がりにくいことです。むしろ新築時よりも家賃が上がっています。そもそも、日本の不動産開発では「竣工時をピークとして家賃は下がる」という既成概念がありますが、それを打ち壊しています。
(2)付加価値があること
付加価値があることです。通常は○○会社が入居者であるという「入居者が建物の顔(イメージ)となる」ことが多いのに対して、建物自体にブランドがあるのです。
(3)成長し続けていること
成長し続けていることです。所有者の努力によって「常に人が集まる新しいイベントを誘致している」のです。時代に併せて更新させる賃貸経営を行っているのです。
この3つのポイントは、まさに地に足をつけて持続可能な成長を続けているヒルズ計画の共通点であり、短期的な収益最大化を目的として、まちづくりは副業に過ぎない大手開発会社(デベロッパー)との大きな差だと私は思います。
森ビルのまちづくり
以上のことから、森ビルの取り組みを一言でいえば、収益を目的とした不動産開発や不動産投資だけでなく、地域の歴史や文化をアップデートしていく「まちづくり」を行っているのです。
とはいえ、決して収益を無視しているわけでもなく、建築費を掛けすぎているわけでもないのです。
六本木ヒルズは、総工費2700億円、投資回収期間15年です。これは通常の小さなビルやマンションの建設においても、収益性は利回り6~7%ですから、規模に関係なく、同じ不動産投資として価値を生み出しているのです。
いうなれば、不動産開発の既成概念や投資回収といった議論を超えた「地主のビジョン」が街を動かしています。
その不動産開発の過程では、六本木ヒルズ竣工までに約17年の歳月をかけたというのです。また、開発当初は森ビルの土地所有権はほとんどなく、周囲の地権者に説得を続けていったというのです。つまり、企画(努力、熱意、発想)だけで地権者や街の意見をまとめました。そして、森ビルが統一管理者(といつかんりしゃ)となり、行政を説得して道路や公園をつくりかえ、まさに街を成長させていきました。
結果、元々いた六本木周辺の地権者の約8割が六本木ヒルズ竣工後に戻ってきました。アークヒルズでは約2割しか戻ってこなかったことを鑑みても、まちづくりが成長していることがお分かりになると思います。
森ビルの歴史と原点
ここで森ビルの原点も紹介します。
<森ビルの原点と解説>
1955年8月 森不動産(当時)創業、創業者は森秦吉郎氏
1956年4月 西新橋第2森ビル(4階建て)竣工
1957年11月 西新橋第1森ビル(10階建て)竣工
1959年7月 第3森ビル竣工
第二森ビル(第一森ビルの方が後に建っているのは、第一森ビルへ本社移転したから)
森家の生業は東京・芝の田村町(現在の港区西新橋)で営む米穀店でした。
1993年に創業者である森泰吉郎氏が死去したのち、次男森稔氏が森ビル、三男の森章氏が現在の森トラストを承継しました。
森稔氏は、信奉するル・コルビュジエの思想に基づいて、衣・食・住・文化を一まとめとした職住近接型の総合的な街作りを行っています。そのビジョンとして、発想を絵にしていることが有名でした。元々、学生時代には小説家になることを志していましたが、大学時代に自宅の米穀店を4階建ての賃貸ビルに建て替えるにあたっての工事管理や入居者探しを任され、これが後のビル経営の原点となったそうです。
ちなみに、私、横山は学生時代より漫画家になることを志していました。CimCity(シムシティ)というゲームが大好きで、一晩中やっていて「街づくり」が大好きになりました。私は、漫画やゲームを通して日本の歴史や文化が22世紀のまちづくりに反映してほしいという想いもありますが、このような思想や熱意というのは人間が作り出せる価値なのではないかと思います。
将来、日本の地方都市がコンパクトシティ化していく中で、都市再編による「流動人口の集中化」と、その土地の文化・歴史・観光スポットを醸成させることでの「流動人口の最大化」が、次の不動産(土地)の価値を決める要因になると考えています。
森ビルの垂直庭園都市(バーティカルガーデンシティ)
森ビルは、密集している低層建築物を高層ビル化と地中化により垂直に集積させ、緑地面積と公開空地を確保する再開発手法をとっています。このようにして生み出した都市を「垂直庭園都市(バーティカルガーデンシティ)」と呼称しています。
このミニチュア模型は、六本木ヒルズのオフィスタワーの一部屋に置いてあるのですが、この東京都の模型と、ニューヨークの模型を比較し、東京都が都市として防災面やインフラ面での課題が一目でわかるようにしたそうです。
私が2013年に実際に六本木ヒルズで見た東京のミニチュア模型の感動は今も色あせません。
森ビルのタウンマネジメント
【横山篤司ANDY学長の研究とビジョン】タウンマネジメントの歴史
森ビルの低層と高層の融合都市~24時間稼働都市~
森ビルでは、建物の利用者や入居者のことを第一に考えて、マンション棟には低層と高層の2つのパターンを作っています。そのなかで容積率をうまく活用し、空が見える低層の住居や、地上が見渡せる高層の住居を組み合わせて柔軟なニーズに応えています。
この六本木ヒルズのMAPを見ての通り、様々な高さの建物に、住居、事務所、店舗、美術館、映画館、公園など様々な用途を散りばめて一つのまちづくりを行っています。これは1つの建物をひたすら高層化して最大収益を取る手法ではなく、まちの回遊性こそが価値を高める一つの要素であることがお分かりになられますでしょうか?
私、横山は、10年後、20年後の日本の都市が都心回帰、地方衰退が進むことを予測し、必ずしも全国で高層化(容積率最大化による開発)を進めることが望ましいと考えていません。日本の都市再編成において最適解は何なのか?そこに土地や建物の使い方と交通手段やインフラを組み合わせた、都市の回遊性が重要だと考えました。
その回答の1つが低層と高層、用途、交通の融合による24時間稼働都市都市再編成の企画です。
こちらは私が2017年に建てた自社ビルの1つです。都心部で容積率未消化ではありますが、低層、高層が入り混じることを許容した駅前再開発の一例です。都市を利用する人たちが、24時間自由に歩き、建物を利用し、楽しむ姿を想像しながら、地主の1人として賃貸経営をしています。
発展する地域、衰退する地域~ジェイン・ジェイコブス~
私が現在、日本全国のオーナーさんと共に都市再開発を行ううえで、ぜひ皆様にも学んでほしい発想を紹介します。
ジェイン・ジェイコブズ(Jane Jacobs、中村達也訳)の「発展する地域・衰退する地域」において、以下の解説を参照として紹介します。
これは街を人が動かしていく上で、機能面だけを追求しても都市は衰退してしまう。むしろ曲がりくねった道や、新旧様々な建物やお店が入り乱れてこそ都市の発展があるというのです。大変興味深いですよね。
※都市の街路や地区で,溢れんばかりの多様性を生成するためには4つの条件が必要不可欠である。
- 地区,そして,地区内部の可能な限り多くの場所において,主要な用途が2つ以上,望ましくは3つ以上存在しなければならない。そして,人々が異なる時間帯に外に出たり,異なる目的である場所にとどまったりすると同時に,人々が多くの施設を共通に利用できることを保証していなければならない。
- 街区のほとんどが,短くなければならない。つまり,街路が頻繁に利用され,角を曲がる機会が頻繁に生じていなければならない。
- 地区は,年代や状態の異なる様々な建物が混ざり合っていなければならない。古い建物が適切な割合で存在することで,建物がもたらす経済的な収益が多様でなければならない。この混ざり合いは,非常にきめ細かくなされていなければならない。
- 目的がなんであるにせよ,人々が十分に高密度に集積していなければならない。これには,居住のために人々が高密度に集積していることも含まれる。
私は、この思想を基にして、日本の都市再生と、未来の不動産の姿を思い描いています。そして、オーナーさん一人一人に寄り添いながら、ヒト、モノ、カネの発展を思い描いています。
2020年1月25日
不動産オーナー経営学院
代表理事 学長 横山篤司